自分は歯ぎしりなんてしてないし関係ない
と思った、あなた!
当然のことですが、寝ている間に行っていることなので歯ぎしりの自覚がある方はほとんどいません。
自覚がある方は、自分の歯ぎしりの音で目が覚めてしまったり、朝起きると歯ぎしりで歯やあごに痛みがあるなどの経験のある方です。
ひどい方だと自分の歯を折る夢を見る方もいらっしゃいました。
よっぽど強い歯ぎしりをしていたんでしょうね。
ちなみに歯ぎしりをすると音がするというイメージがありますが、音がするのは歯ぎしりのうちの30%程度で残りは音がしません。
歯ぎしりの力は起きているときに力いっぱい噛むよりも強いです。自覚もなければ他の人からも指摘されないままに歯ぎしりによって歯や歯茎、あごを壊していくのは非常にもったいないです。
日々の診療でご説明する内容を自分なりにまとめてみましたので是非ご覧ください。
こんな自覚症状がある方は要注意!
症状が出ている場合はすでに歯ぎしりで歯や歯茎を傷めている方が多いです。また急激に悪くなっている証拠ですので早めに受診するようにしましょう。
肩こり
寝ている最中に緊張することで肩の筋肉が筋肉疲労を起こします。その結果、慢性的な肩の筋肉の血行障害により肩こりが起こります。また、肩の筋肉の血行不良により肩から上の筋肉への血行まで悪くなり、後に挙げる筋緊張性頭痛や顎関節症の原因となります。
頭痛
こめかみから頭の横にかけての頭痛は側頭筋という咬む為の筋肉(閉口筋)の血行不良によって起こります。筋緊張性頭痛と呼ばれ、暖めたり、ストレッチをして筋の血行を改善することで症状が改善します。
余談ですが、筋緊張性頭痛と偏頭痛が混同されることがありますが全く違うものです。偏頭痛は脳の中の血管拡張によって神経が圧迫されることにより起こるので血行を良くすると症状が悪化しますので暖かいお風呂に入ったりするのは厳禁です。
口が開けにくい、または痛みを伴う(開口障害)
筋肉や顎の関節周りの組織を酷使することでこのような症状が出ます。口を精一杯開けたときに指が三本縦にして入らないと問題があると判断します。ひどいくなると食事も取れないくらい全く開かなくなってしまう方もいます。
歯がしみる(知覚過敏)
冷たいものがしみる、歯ブラシをしたときに痛むなどの症状です。くわしくはこちら→http://ishiguroshika.com/column/hys/
歯が浮いた感じがする、咬むと痛い(咬合性外傷)
歯に過大な力がかかっている証拠です。歯ぎしりは起きているときの何倍もの力を長時間かけ続けます。歯茎や歯を傷め、歯周病や歯の破折を招きます。
詰め物がとれやすい、欠けやすい
歯ぎしりのある方は樹脂の詰め物(CR)やセラミックの詰め物を容易に割ります。また金属の詰め物であっても接着に使うセメントにも付加がかかるため非常に取れやすくなります。歯医者さんに何度も詰め物がとれて通院したことがある人は歯ぎしりを疑ったほうがいいかもしれません。
歯ぎしりの診断方法
お口の中を見たときに歯ぎしりをしている方には特徴があります。症状が出る前に診断することで症状を予防することができます。
ただ一概に歯ぎしりといっても方法によって影響の出方は異なります。
歯のひび割れ(エナメルクラック)
歯の表面のエナメル質は身体の中で一番硬い物質です。
しかしガラスやダイヤモンドと同じ結晶構造をしているので強い力がかかるとひびが入ってしまいます。ひび割れに色が入ると見た目に非常に目立ちます。またひび割れが深い場合、知覚過敏の原因となることがあります。
歯の削れた跡(咬耗、ファセット)
歯は外側はエナメル質、内側は象牙質の2層構造をしています。歯ぎしりによってエナメル質が削れると象牙質が露出します。象牙質はエナメル質よりも柔らかいので象牙質の方が削れてきます。すると歯がえぐれた状態、クレーター状になります。
また、手前から3,4,5番目の歯は横に大きく歯ぎしり(グラインディング)をした場合、強く擦れるため歯の先端の部分が特にすり減りが強く出ます。普段の食事で動かす範囲よりも大きく動かしたときに上下の歯の先端が一致する場合、度重なる歯ぎしりによってすり合わされている証拠になります。
歯茎が下がって根が露出している(歯肉退縮)
歯を支える歯茎や骨にダメージが出ている証拠です。横に大きく動かすタイプの歯ぎしり(グラインディング)をしている場合は手前から3,4,5番目の歯の歯茎、ぐっと食いしばるタイプの歯ぎしり(クレンチング)をしていると6、7番目の歯の歯茎が下がりやすいです。後述のWSDとともに知覚過敏の原因となります。
歯の根元がえぐれている(WSD)
噛み合わせの力によって歯の根元が欠けてしまっている状態です。歯ブラシの擦りすぎと指導する歯医者さんもいますが、欠けるほど擦ったら痛いはずです。歯肉退縮と同じ箇所に起こりやすく、知覚過敏の原因となります。
舌の側面が波打っている、ほっぺたの内側に線がついている(舌の圧痕、頬粘膜の圧痕)
歯ぎしりをしている時は肩から上の筋肉の緊張が強くなります。舌は筋肉の塊です。歯に押し当てるように緊張すると朝起きた際に強く跡になっていることがあります。頬の内側の線も同様です。
エラが張っている(咬筋肥大)
歯ぎしりによって筋肉を鍛えてしまうと、いわゆるエラと呼ばれる部分(顎角部)が張ってきます。また筋肉の緊張が強い場合、押すと痛みがあったり、さらに進むと顎関節症を引き起こします。
歯ぎしりの治療法は?
歯ぎしりは眠りの浅いときに出ます。なので眠りの質を上げることが予防になってきます。寝る前にぬる目のお風呂に入ったり、ホットミルクを飲む、アロマを炊くなどリラックスして副交感神経優位にすることが重要です。
また、横向きやうつ伏せに寝ると上下の歯が接触しやすくなり、歯ぎしりが惹起されますので仰向けに寝ることも重要です。
高い枕を使用するのも良くありません。バスタオルを折って低めの枕として使用すると良いでしょう。
ただし、無意識でしてしまうことなので完全に歯ぎしりを予防することは難しいです。
歯と歯が接触しないよう緩衝材としてマウスピースを使うことで歯や歯茎に対するダメージを軽減することができます。なおマウスピースは健康保険がききます。
そもそも歯ぎしりの原因は解明されていません。
なので根本的な治療法がないのが現状です。
マウスピースはあくまでも対処療法で、継続的に使用する必要があります。
読んでいる方の中にも作ったけれど失くしてしまった、または棚の中に入れたままという方も少なからずいると思います。
本当に怖いのは自覚がないままに破壊的な力がかかることです。
また歯の割れ方によっては即抜歯につながることも少なくありません。
歯医者さんに指摘される以外にはなかなか気付くことができないと思いますので少しでも思い当たる節のある方は積極的に受診するようにしましょう。